土佐女子の響き

コーラス部顧問 芸術科 西本 佳奈子

☆コーラスの魅力
 私と音楽との出会いは四歳頃だったでしょうか。 通っていた保育園でヤマハ音楽教室の出張レッスンがあり、 それに参加したのが始まりです。 音楽は、 幼い私にとって文字通り 「音を楽しむ」 ものでした。 もともと性に合っていたのだろうと今は思います。

 土佐女子中学校に入学後は、 コーラス部に入りました。 (その当時、 土佐女子には吹奏楽部がありませんでした。 もしあれば、 そちらに入部していたと思います。) そこで、 甲藤幸夫先生や曾我部修先生の薫陶を得て、 青春時代の私はすっかり 「歌うこと」 の虜になってしまいました。
 鍵盤楽器にしても管弦楽器にしても、 基本は 「声」 にあると私は考えています。 実際の練習の際に、 まずメロディを口ずさんで臨むことで、 演奏に表情がつくということがあるからです。
 そもそも、 まだ人間が 「モノ (道具)」 を獲得しない原始の時代、 彼らに許された情報伝達、 感情表現の手段は自身の肉体でした。 最初は、 危険を仲間に知らせたり敵を威嚇したり、 自分の命や種を維持するために備わった能力が、 喜怒哀楽といったより複雑な感情、 自分が心に思い描いたことを直接的に表現する手段にもなる  私たちの祖先が、 この魅力に気づかないはずがありません。 つまり、 声は四肢同様、 重要な 「メディア」 だったと言えるのです。
 私も彼らに倣い、 やがて音大に進学して声楽を専攻、 卒業後は縁あって母校の教壇に立ち、 そのうちコーラス部の顧問を務めることになりました。

☆新任顧問の奮闘
 ところが、 私が顧問に就任した頃のコーラス部はまさに 「冬の時代」 でした。 忘れもしません、 高知県で高校総体が開催された平成元年です。
 かつて中高合わせて百名を超える大所帯だった部員数は、 たった六名にまで落ち込み、 どのコンクールにも人数不足のため出場できないといった状態だったのです。
 新任顧問の最初の仕事は部員確保でした。 音楽室の前を通る生徒に (半ば脅迫のように) 声をかけたり、 授業中よく声の出ている生徒を狙って勧誘したり (そんな生徒のほとんどが運動部員だったのには驚くやら感心するやら)、 コンクールには何人もの 「助っ人」 を加えてやっとのことで出場しました。
 その後、 だんだんと部員数が増え、 練習も何とかさまになってきました。 それに伴い、 県内の各コンクールで上位入賞する機会にも恵まれました。

☆立ちふさがる壁
 土佐女子校コーラス部の名が高知県で通るようになるまでには、 さほどの時間はかかりませんでした。 しかし、 「四国」 という壁はそう簡単には突破できません。 ましてや 「全国」 は遥かな夢でした。
 なぜ入賞できないか、 何がどう違うのか……疑問を抱きつつ、 ある年の全国大会を聴きにいった私を、 出場各校のハーモニーが打ちのめしました。 曲の解釈の深さや練習内容のレベルの高さを、 私の耳に入る歌声だけでなく、 ステージ上の生徒一人ひとりの表情が物語っています。 地道な練習に耐えて予選を勝ち抜いた者の持つ自信、 そして何よりも、 歌うことを楽しむ気持ちが、 各々の顔に満ちています。 普段の練習と大舞台に立つ経験との相乗効果でより大きな感動がもたらされているのです。
 それからは、 機会あるごとに全国大会に足を運んだり有力校の練習風景を見学させていただいたりして、 本校コーラス部に反映させるよう努めています。

☆土佐女子校コーラス部
 本校部員の長所は 「熱心に練習する姿勢」 だと思います。 全国進出が射程距離に入って以来、 一層熱意がこもってきました。 四国大会や全国大会では、 かつて私が受けたような衝撃を生徒たちも受けるわけですが、 優れた合唱を聴くことで彼女たちの 「耳」 も肥えてきたように思います。
 さて、 普段の練習は、 最初にストレッチ体操をして、 次に発声練習、 その後各パートごとに練習して、 最後に全体で合わせるといった流れで行われます。 ただ、 放課後は補習などの理由でなかなか全員が (特に高校生が) 揃いません。 なので、 昼休みを前半と後半に分けて、 その間は個別に近い、 密度の濃い指導ができるようやりくりしています。
 それ以外にも各自が自主的な取り組みを行っているようです。 それは単に発声の技術習得だけでなく、 歌詞の意味を理解するための調べ学習も含まれています。 日本語詞はむしろ少ないくらいなので、 英語に限らず外国語 (イタリア語やラテン語が多い) の知識や、 曲によっては歴史や宗教にまで調べが及ぶこともあります。 私もつい先日、 フィンランド語の曲に行き当たり、 知人に教えを乞うたことでした。 また、 拍子・リズムの難しい曲だと数学的思考力や運動神経が必要なこともありますから、 普段の学習全般が、 コーラスにも影響すると考えられるでしょう。
 学校のクラブ活動として合唱に取り組む意義は多様だと思います。 まず、 個性重視の現代において、 コーラスは 「個性の突出」 を嫌います。 全員に同じ響きを発することが求められるのです。 運動部で例えるならば団体競技です。 ですから、 練習を積むにつれて、 部員たちには辛抱強さや協調性、 思いやりの心、 そして他者の良さを見出だす目が備わるように感じます。
 また、 本校のような中高一貫教育校の場合、 教えたことを素直に受け取り成長する中学生とこちらのヒントから自分なりの答えを導いて想像もしなかった作品に仕上げる高校生とでは、 その成長過程に応じて自然と指導方法も異なりますが、 私にとってはどちらも興味深く、 同時にそれぞれの難しさや責任を感じるところです。
 いずれにしても、 全国大会に出場することだけでなく、 日々の練習が部員一人ひとりの 「宝」 になると信じて、 歌う側も聴く側も心揺さぶられる豊かな歌声とハーモニーを目指そうと考えています。

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